戦国時代の名将・武田信玄の父で、甲府を開いた信虎の晩年を描いた時代劇。武田信虎入道は息子・信玄に甲斐を追放され、駿河を経て京で足利将軍に仕えていた。追放より30年が過ぎた元亀4年、80歳になった信虎は、信玄が危篤に陥っていることを知る。武田家での復権を目指し甲斐へと向かう信虎だったが、新たな当主・勝頼とその寵臣に阻まれてしまう。やがて武田家存続こそが自らの使命であると悟った信虎は、織田との決戦にはやる勝頼の暴走を止めるべく知略を巡らせる。ベテラン俳優・寺田農が主演を務め、信虎の娘・お直を谷村美月が演じる。「デスノート」「平成ガメラ」シリーズの金子修介監督がメガホンをとり、黒澤明監督作や今村昌平監督作で知られる池辺晋一郎が音楽を担当。
信虎評論(5)
南口にいる信玄公と比べると知らないことだらけだったので、映画での人物像に興味がありました。
戦国時代に疎い私にも見やすい作品でした。
パンフレットの寺田さんのインタビューでは「わかりやすくなり過ぎてしまった」との言葉がありましたが、これはむしろ助かりました。
歴史物であることに加えて、ほぼ想像に任せるとか、解説が最小限とかだったりしたら、映画慣れしていない私は最後までついていけなかっただろうと思います。「字幕」もとっても助かりました。用語を知らないとセリフも聞き取れなくなりますから、初心者が躓く要素を減らしてくれた字幕には感謝です。
四季が現れた景色が素敵です。妙覚寺というお寺はとてもきれいな所ですね。
全体的にリアルにこだわった印象があり、流血シーンはそれなりに怖かったですが、所々に笑える所や驚くような要素が入っていて楽しい映画でもありました。
岡島百貨店で見た黒いポスター、どうして北斗七星が描いてあるんだろうと気になっていました。ただのデザインにしては・・・妙な感じでしたから・・・。
おサルの「勿来(なこそ)」ちゃんは期待通りとっても可愛かったです(クリアファイルになっていたのも嬉しいです)。この子が動くたびに他のお客さん達も楽しそうに笑うのが聞こえてきました。でもおサルさん以上にざわついたのは、お菓子が出てきたシーンです。一番ザワッとしたのでびっくりしました。
周りのお客さん達の年齢層が比較的高めだったので、私が「あれっ」と思ったような小ネタには反応が鈍かったです。それもちょっと面白かったです。
それから、観る前は全く予想していなかった「倒せないラスボス感」というものを味わいました。
ラスボスと言うとまるで悪い人みたいですが、見た瞬間に浮かんだ表現がそれです。
話は柳沢吉保の回想録のような形でスタート。回想録は信玄公が倒れたところから始まる。信玄公にあとを頼まれたと思い込んだ信虎は、家督を継ぐべく娘と十数名の家臣を連れて甲斐国に目指すが、信濃国で孫の勝頼や信玄・勝頼の家臣団にはばまれる。その間織田の勢力が増し、勝頼の当主としての器量の限界を感じた信虎は家督より武田家存続を目指し、天寿を全うする。
というのが大まかな話。
血がリアルに吹き出たり、公家の娘の顔作りが当時を再現してるのは最近の戦国ドラマではあまりみないかな。
戦闘シーンは関所突破シーン、忍者との戦闘、天目山とそこそこあります。信虎の方針転換した辺りからフィクション性が高くなります。
観客の年齢層は高く、そんなに若い方ではない私が一番若かったかなって思ったくらいです。
歴史知らない人でも途中字幕や地図や説明が入るので置いてきぼりにはならないと思いますが、登場人物が多いので、ある程度知識がないとどれがどの人か分からなくなるかも。
最後にまさかのあるネタをぶっ込んで来て思わず笑ってしまいました。この年齢層にこのネタ分かるのかな。
字幕が多用されていて、丁寧に説明しようとする意図は感じた。
信虎と勝頼の対峙の場面は、特に見せ場になっており
各人物の葛藤が画面から伝わってきた。
私もそこそこ歴史には詳しいのだが、
歴史ファンなら分かる細かい部分にもこだわりがあったのが
時々発見できるのはうれしい。
音楽も大河ドラマのような雄大さで、
場面場面で効果的に使われているのは評価したい。
字幕などはゆっくりと確認出来なかった部分もあるので、
後でDVDなどでゆっくりと鑑賞したいと思った。
そういう意味では、二度楽しめる作品なのではないか。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、
信虎のある能力…に注目。
歴史好きな方なら大いにハマれるだろうが、新しい演出好きな若者には少し硬派で意見が別れるだろう。だが、あえて硬派なイメージで作ろうとするあたり、偉人への尊敬の念と歴史映画制作へのこだわりを感じる。脚本や演出、俳優の演技や音響、小道具、大道具など大河ドラマと遜色なく、それ以上とさえいえる仕上がりだろう。
ただし、パンフレットの寺田さんのコメントにもあるように、丁寧さは確かに大切だがやりすぎるとしつこさを感じることもある。また、情報量の多さから、かえって混乱してしまう人もいるかもしれない。この点は改善の余地として、ミヤオビピクチャーズの次作に期待したい。
80歳の老将が、隠居先の京から甲斐の国主に返り咲こうと家臣郎党を引き連れ一世一代の旅に出る。映画『信虎』のメインストーリーは、戦国時代の余り知られていないこの史実を基にしている。製作陣は『甲陽軍鑑』を読み解き、武田信玄に追放された非道な父・信虎という一般的なイメージから、甲斐の国主としての誇りを忘れず、老境にあっても果敢に復権をめざす新たな信虎像の確立を目指そうとしている。
2022年は武田信玄生誕500年の節目の年である。なぜ今、信虎と勝頼なのか。その答えは、物語のクライマックスといえる、両者の一世一代の対峙に端的に表れているといっても過言ではない。北条氏、そしてかつて信玄と敵対した上杉氏と手を組み、国主として織田信長包囲網を画策する信虎。それに対し、信玄から陣代としてのバトンを受け取り、戦へとはやる若武者勝頼。三年の喪を守ろうとする家臣たちを巻き込み、強烈な不協和音を響かせるこの軍議のシーンが、強大なリーダーシップを失い、時代の潮流に呑まれ崩壊していく武田家、ひいては信玄の偉大さを逆説的に表現しているのだ。「市民ケーン」や「ゴッドファーザー」を彷彿とさせる構図である。
物語を通底する「武田信玄のレガシー」というテーマは、従来の大河ドラマや時代劇映画では描かれにくいこの映画のユニークな視点にも表れている。たとえばこの映画は元禄時代、武田家の幕府高家としての再興を果たした側用人柳沢吉保が、息子に語り伝える物語という体で始まる。徳川家康は武田家の遺臣を庇護し、天下泰平の江戸時代をつくった。ほかでもない柳沢吉保こそが武川衆の出なのである。徳川家がいかに甲斐の地、そして人脈、血脈を重視していたかを、この映画は教えてくれる。
このような徹底的に考証や新視点を取り込んだ「硬派」な時代映画としての側面もありながら、時代劇のエンターテインメント性を損なわないアイデア性も見どころの一つだ。黒沢映画をはじめとした往年の名画をリスペクトしたキャスティング、流血伴う戦闘シーンや時代の変遷が見える城内の調度品など、戦国のリアリティを追求した演出は圧巻といえるだろう。そして物語は妙見信仰や諏方大明神の伝説など「伝奇性」を取り込む一方で、お直御寮人と信虎、父娘のすれ違いを描いたロード・ムービーといった繊細な性格も持ち合わせており、信虎の物語を魅力的に見せる製作陣の苦心と奮闘の跡が垣間見える。
それぞれの「御家存続」がぶつかり合う重厚な戦国ロマンに、荒削りな演出が息をつく間もなく連続するスピード感は好みが分かれるところであろうが、却ってこの映画の持つ特異性を引き立てることだろう。