「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などの脚本家として知られ、「さよならの朝に約束の花をかざろう」で監督デビューを果たした岡田麿里の監督第2作で、「呪術廻戦」のアニメーション制作会社・MAPPAとタッグを組んだオリジナル劇場アニメ。製鉄所の爆発事故によって全ての出口を閉ざされ、時まで止まってしまった町。いつか元に戻れるように「何も変えてはいけない」というルールができた。変化を禁じられた住民たちは、鬱屈とした日々を過ごしている。中学3年生の菊入正宗は、謎めいた同級生・佐上睦実に導かれて足を踏み入れた製鉄所の第五高炉で、野生の狼のような少女・五実と出会う。「呪術廻戦」の榎木淳弥が主人公・正宗、「私に天使が舞い降りた!」の上田麗奈が同級生・睦実、「リコリス・リコイル」の久野美咲が謎の少女・五実の声を担当。製作陣にも副監督の平松禎史、キャラクターデザイン・総作画監督の石井百合子、美術監督の東地和生ら、「さよならの朝に約束の花をかざろう」のメインスタッフが再結集。「空の青さを知る人よ」の横山克が音楽を手がける。
アリスとテレスのまぼろし工場評論(20)
外界から隔絶し、時間からも切り離された寂れた地方都市を舞台に、鬱屈した毎日を送る少年少女たちの恋愛と選択を描いたセカイ系アニメーション。
主人公・菊入正宗の父親にして街に鎮座する製鉄所の従業員、菊入昭宗を演じるのは『ミックス。』『人間失格 太宰治と3人の女たち』の瀬戸康史。
正宗の叔父にして製鉄所の従業員、菊入時宗を演じるのは『悪の教典』『コーヒーが冷めないうちに』の林遣都。
試写会に当選したため、一足早く鑑賞!MOVIXさん、ムービーウォーカーさん、ありがとうございます♪
さてさて、この映画の監督/脚本は岡田麿里。
『ルパン三世』フリークの自分は、彼女がシリーズ構成/脚本を手がけた『LUPIN the Third -峰不二子という女-』(2012)を鑑賞した際、「なんじゃこのクソアニメ!?岡田麿里ぃ、名前覚えたからなぁ〜💢金輪際コイツの作品は鑑賞せんぞ!!」なんて思ったものだが(今にして思えば、革新的な作品を作ろうという意欲が見られた分、その後に作られた『PART5』や『PART6』よりは見どころはあったわけだが…)、なんの因果か再び岡田麿里作品に向き合うことになってしまった。
映画の内容としては、少女の運命と世界の命運が直結しており、かつその中で少年少女の恋愛が発展してゆくという、「キミとボク」的な至極純粋なセカイ系アニメ。
この手の作品を観ると「世界がヤバいことになってるってのーに、乳繰り合っとる場合かーっ!!」と一喝したくなるものだが、そこにツッコミを入れるというのも野暮っちゃ野暮か。
それに、いざ世界が終わるとなったらリビドーと性的衝動に突き動かされるのが自然なのかも。それならそれで、もっと山本直樹的なグズグズした性を描くべきなのでは、なんて思ったりもするが、まぁそれは置いておこう。
同じ日常が延々と続く、という設定は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)を思い起こさせるが、作り出された昭和(正確には平成だけど)に閉じ込められるという点は、TVゲーム「十三機兵防衛圏」(2019)からの引用か。
また、モヤの烟る隔絶された過疎地という舞台設定はTVゲーム「ペルソナ4」(2008)やTVアニメ『SSSS.GRIDMAN』(2018)からの影響を強く感じさせる。特に煙を吹き出す謎の工場が街に鎮座している様にはどうしても『フリクリ』(2000-2001)を連想してしまうが、これは本作の副監督を務める平松禎史が『フリクリ』の設定を担当していたことと関係しているのかもしれない。
徐々に滅びてゆく世界とそれを受け入れる人々という図式は小川洋子女史の小説「密やかな結晶」(1994)や村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(1985)から頂戴したんだろう。
そして、フォトリアルな美術や寂寥感のある人物造形からは新海誠監督のエッセンスを感じずにはいられない。
色々と下敷きにした作品が見え隠れするが、なんやかんや言って一番影響を受けているのは『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-1996)でしょう。主人公の性格や年齢設定など、もうこれほとんど『エヴァ』。
永遠に続く冬という世界設定も、『エヴァ』の常夏という設定を上手くパク…もといオマージュしている。最後で季節が変わるというオチも、それ漫画版「エヴァ」で見ましたよ。
キャラや設定だけならまだしも、執拗なまでに線路を描くという徹底ぶり。そこまでしなくても別にいいんじゃない…😅
平松さんは『エヴァ』シリーズにもメインスタッフとして関わっているし、そこら辺が本作のエヴァっぽさに拍車をかけているのかも知れない。
とまぁ事程左様に、めちゃくちゃ既視感のある設定と物語である。
驚いたのは本作が宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(2023)にも近似していたこと。公開時期的に考えてもこれは偶然の一致なのだとは思うが、間が悪いというかなんというか…。
とにかく、日本のアニメやゲームはセカイ系が大好き。40年近く、手を替え品を替え描かれ続けてきたセカイ系であるが、さすがにもう出尽くした感が強い。出涸らしとも言えるセカイ系というジャンルで、なかなか目を見張るようなセンス・オブ・ワンダーを生み出すのは難しいのかも知れない。
少なくとも、本作においてはそういった驚きを見ることはできなかった。
話運びの鈍重さやドラマの退屈さなど問題はいくつか見られるが、一番気になるのはクライマックス。
現実から幻の世界に迷い込んだ少女・五実。彼女を現実世界に返すと世界は崩壊してしまう。世界か、それとも少女か?この選択こそが本作のキモである。うーんザ・セカイ系。
…ここがキモの筈なんだけど、結局五実を現実に返しても世界は大丈夫でした!…えっ!?
じゃあそれまでのすったもんだは、五実の失われた10年は一体なんだったのよ💦
いずれ世界は終わるけど、それは今じゃない!って、聞こえはいいけどそりゃ欺瞞に満ちてるよ。世界か少女かを選択しなきゃならないなら、選ばれなかった方の末路はちゃんと描くべき。
大体このクライマックス、登場人物それぞれの思惑があっちやこっちやに散らばりすぎていてとても飲み込みづらい。善人と悪人にきっちり分けろとは言わないけど、もう少し五実解放チームと世界崩壊阻止チームの組分けははっきりさせておいた方が良いのでは?
それにしても、世界崩壊阻止チームの層の薄さよ…。バン一台くらいだったような気がする。敵側がその戦力でクライマックスが盛り上がる訳ないだろ…🌀
本作で描かれる恋愛模様も気持ち悪すぎっ🤮
義理の姉に向かって「良いお母さんで終わらせるつもりはないからキリッ」って、それ倫理的にどうなのよ。
実の娘に向かって「正宗の心は私のものなのよ〜ん」って、それもなんか気持ち悪いし、最後に「わたしの初めての失恋だった…」と五実に呟かせるのも気持ち悪い。
この全編にわたって漂う近親相姦的な匂いは一体…?もう少し竹を割ったような少年少女の純愛劇でよかったんじゃない?
さすが新進気鋭のアニメスタジオ「MAPPA」制作なだけあって、作画のクオリティは素晴らしい。
これだけの素晴らしい技術力を用いて作るのがこんな映画じゃ、スタッフが勿体無いよ。
かなり辛口になった気がするけど、正直これはウーンな作品だと思いますよ😢
…あっ!
そういえばこの映画のタイトルにある「アリス」と「テレス」。
当然この2人が主役なんだと思っていたんだけど…。どっかに登場してたっけ?ボーッとしてる間に見逃したのかしらん?
別に製鉄所が幻を生み出していた訳じゃないし、なんかタイトルズレてるよねこれ。
時が止まった世界の秘密を暴く展開がメイン⁈かと思いきや、閉鎖環境で解放を求める現代人の観客視点を取り入れた主人公キャラクター達の恋愛模様が主軸の作品で楽しかった。
作画は安定の美麗作画で、作品に没入して鑑賞出来た。
こころが大きく動くと痛いのだ。
そして、何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。
選択という残酷な痛みを抱えて未来へ向かおう。
たとえ終わりの日を感じたとしても、たとえ止まっているように見えたとしても、生きることを諦めないで。
たとえ小さな一歩でも、歩みを止めなければきっと何かが変わっていく。
残酷に、愛することの素晴らしさを伝えるシーンが最高でした。
「だからあなたも痛みに怯えずに誰かを愛して。」そんなメッセージがほとばしる瞬間、私の胸も痛みで震えました。
昭和レトロなデザインと昭和的な発言の違和感はこれだったのか!
取り残された旧世代から今を生きる世代へのメッセージ。
映像にはかなり期待していましたが、
こっちも凄いスピードで動いてるけど、あっちのも凄いスピードで動いてるよ〜?!
ものすごい映像に驚きつつ、その世界観に引きずりこまれます!
生活音がとても丁寧。
ストーリーは、製鉄所の爆発事故により時間が止まり、閉鎖空間に閉じ込められ、いつか元に戻るために何も変化させないことをルールとした町・見伏に住む中学生の菊入正宗が、同級生・佐上睦実に誘われて向かった製鉄所の第五高炉で、狼のような少女・五実と出会ったことで、何年も変化のなかった町や人々の心が大きく動き出していくというもの。
おもしろそうな設定、謎の少女の存在、この街の結末など、興味をそそられる内容です。ただ、岡田麿里監督の前作「さよならの朝に約束の花をかざろう」では、人物の心情の繊細な描写を感じる一方、全体的なまとまりや整合性には疑問を感じていました。そして、本作でも同様の感想となりました。
正宗が睦実に対して抱く自覚のない恋のような思い、睦実の正宗に対する距離の取り方、五実が正宗を慕う気持ちなど、少しずつ変化していく様子を、言葉や表情や態度で感じ取らせていたのはよかったです。しかし、終盤にさしかかっての同級生や大人たちの変化はいささか唐突で、テーマへの絡め方もやや乱暴に感じました。時が止まった空白期間の描写がほとんどないことで、終盤のたたみかけるような展開に違和感を覚えたような気がします。時が止まったことで、体は成長してないようですが、心の成長はどうなのでしょうか。この町の誰もが、変化をタブー視して、心に蓋をしてきたけれど、本当は抑え込んできた強い思いがあったというような描写があれば、もう少しすんなり受け入れられたかもしれません。
とはいえ、本作から「生きる」とはどういうことなのかというメッセージを受け取った気がします。変化を恐れ、全てを諦め、痛みも感じない、心も動かさないのは、生きているとは言えない。誰かを思い、心が揺れ、痛みを知る、自分を知る、そんな心の成長こそが「生きる」ということなのではないでしょうか。
ちなみに、タイトルにある「アリスとテレス」は出てきません。本当の意味で「生きる」ことを選んだ見伏の人々に、アリストテレスの「希望とは、目覚めていて抱く夢をいう」という言葉を当てはめたのかもしれません。でも、ちょっと伝わりにくいタイトルだと感じました。
キャストは、榎木淳弥さん、上田麗奈さん、久野美咲さん、八代拓さんら声優に加え、林遣都さん、瀬戸康史さんも参加しています。主要キャラは声優が担当していますので、その点は安心して観ていられます。
制作はMAPPA。それとキャラデ石井百合子に見られるように、一作目「さよ朝」のメインスタッフで構成されているようでした。
トレーラーで印象的だったのが美しい作画に美術。
初の劇場版オリジナル作品とありMAPPAも気合入れたのでしょう、本編でもそのクオリティには驚かされました。
そんな世界に横山克の音楽がすごいフィットしているんですね。
物語を後押しするような、中島みゆきの歌も素晴らしかったです。
それと、思春期のドロドロとした感情に恋愛模様、そこにちょっとしたエロ要素などもあって、今作は「マリーらしさ」がすっごい出てましたね。
なので明確に好き嫌いが分かれるとは思いますが、そんな事は気にせずのびのびとしてる感じでした。
あと純文学的な要素が強く、ここら辺からもタイトルに繋がったんでしょうか。真っ直ぐに受け取ると睦実と五実でしょう。
舞台は時間や場所が閉ざされた町での物語。
序盤は世界観や設定などはふわっとしか見せずゆっくりとした進み。
中盤から段々とその世界が見えてきて、終盤からはどっと押し寄せてきます。こうなると終始ワクワクしてました。
終盤は視覚からの情報量も多く、幾つもの世界がレイヤーを重ねたような映像は実に美しかったです。
ずっと横たわる閉塞感と見る事のできない夢、それぞれの居場所と託す未来。
残りたい者に進みたい者。それは誰も悪くなくて、ただ自分のあるべき場所が欲しかっただけに見えました。
それにしても流石、揺れ動く不安定な思春期の描き方はうまい。
複雑そうに見える設定も結構あやふやでただ閉鎖されているだけ。
これも彼らの“今この目に映るものが全て”って感じだったと思います。全部が衝動的な感じなんですね。
そんな彼らの衝動に何度か涙した、とても切ない物語でした。