「クラウド アトラス」「空気人形」などで国際的に活躍する女優ペ・ドゥナが、2年ぶりに母国・韓国の映画に出演し、「アジョシ」「冬の小鳥」で演技派子役として注目されたキム・セロンと共演を果たした主演作。とある港町の派出所へ左遷された、ソウルのエリート警察官ヨンナムは、母親が蒸発して父親と義理の祖母に虐待されている少女ドヒと出会う。ドヒを救おうと奔走するヨンナムだったが、自身のある過去が明らかにされ、窮地に陥ってしまう。そんなヨンナムを救おうと、ドヒはある決断をする。2014年・第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、日本でも同年の第15回東京フィルメックスのコンペティション部門で上映された(映画祭上映時タイトル「扉の少女」)。監督は本作が長編デビューとなるチョン・ジュリ。
私の少女評論(19)
圧倒的な閉塞感が漂う作品。何故にこうまで主人公たちは苦しまねばならないのか、何故に世間はLGBTの人たちを目の敵にするのか、一体彼らが何をしたというのだろうか。
奇しくも本作を鑑賞する前、韓国のトランスジェンダーの兵士が除隊処分となり、自殺したというニュースを知った。儒教の国である韓国は日本以上に保守的でLGBT の人たちは生きづらいようだ。
このような悲劇があっても韓国では差別禁止法案はいまだ保守系団体の反対が根強く法律化は困難な状況。日本でも同じく保守的な政権が法案を見送っている。LGBTは道徳的に認められないだとか、種の保存に背くだとか、もはや脳が化石化 したこれら議員の発言を聞いていると程度の違いこそあれ両国はこの問題においては似た者同士と思える。
今でこそ、多様性だの、性的マイノリティーだの言葉が行き渡り、人々の意識も変わりつつあるが、やはり国自体がこれでは当事者たちにしてみればまだまだだろう。
私自身はLGBTではないし、彼らのことを理解出来るとは思ってはいない。しかし彼らの存在は認めているし、認めるべきなのだ。何故ならいまそこに存在しているのだから。
彼らを否定している人たちは自分らが否定すればLGBTがこの世から消えてなくなるとでも思っているのだろうか。彼らのやってることは自らの偏狭的な頭では理解出来ないものをただ否定し、現実逃避しているだけなのである。
本作の主人公も先の兵士と同じく同性愛者というだけでソウルから辺鄙な田舎の警察署へ左遷されてしまう。そこで彼女は実の母に捨てられ義父と義祖母から虐待を受けている少女と出会い、彼女を匿う。
ご多分に漏れず、この田舎町も少子高齢化で働き手の若者はドヒの義父くらい。彼は不法滞在の外国人で不足する労働力を補っていた。漁業や農業以外これといった産業のない田舎町はそんな彼に頼ってるのが実情であり、町の人々は彼の行動に目をつむっていた。
度重なるドヒへの暴力と外国人への暴力に見かねた主人公は彼を逮捕するが、逆に彼女は児童への性的虐待の疑いで告発されてしまう。
かつての同僚から取り調べをうける彼女。端から疑いの目で見る同僚たち。何が問題なのと問う彼女にお前が同性愛者だから問題なんだという同僚。まるでそれ自体が犯罪であるかのように。
ドヒが義父から性的虐待されたと装ったことで疑いが晴れる主人公であったが、少女とは思えぬその行動に義祖母の死もドヒが関わっていたと確信する。
今回の騒動で再度の異動を命じられた主人公はドヒに別れを告げる。しかし車中でドヒは子供らしくない、何を考えているかわからない、時折怪物のように思えるという部下の青年警官の言葉を聞き、主人公はドヒのもとへ引き返す。
人は自分が理解できない人間を怪物のように感じる、主人公も同じように人から見られていた。ドヒと自分は同じなのだと悟った主人公は彼女と共に生きることを選択する。
全編通して息苦しく観ていて辛い作品だったが最後に微かな救いを感じとれた。LGBT 、児童虐待、外国人労働者問題と今まさに日本でも問題となっているこれらの要素を入れつつ、一人の女性と一人の少女の心の触れ合いを見事に描いた作品。これがデビュー作とは思えない。さすがイ・チャンドンプロデュース作品なだけのことはある。
いつしか遠い未来のLGBT の人々が本作を観て昔はこんなこともあったんだね、今では信じられない、という日が来てくれることを願う。
ちなみに草薙剛氏の「ミッドナイトスワン」という映画は本作にインスパイアされたのではないかとふと思った。
小さな怪物に成らざるおえない過酷な環境にいたドヒを理解できたから、ヨンナムはラストに「私と行く?」と言ったのでしょう。子供、女、貧困という社会の最下層にいるドヒ。ヨンナムは、彼女を保護というより同士として迎えいれた様に感じました。
クライマックスで少女がどう行動するかだけは若干先読みしやすい感が否めないけれど、村社会、搾取の社会構図、マイノリティへの世間の仕打ち。
暴力を描く力強さ、韓国はスゴイですね、相変わらず。