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男はつらいよ 寅次郎相合い傘評論(16)
シリーズ15作目。
OPの夢は、大海原を行く海賊タイガー(寅さん)が、奴隷船に囚われていた妹チェリー(さくら)と再会する。
そう、渥美清はジョニー・デップより遥か以前に海賊をやっていたのである!(夢だけど…)
(ちなみに、このシーンの倍賞千恵子がドキリとするほど美しい)
いつになく長くとらやに帰って来ない寅さん。
さくらたちも心配物寂しい。
そんな寅さん不在のとらやを突然訪ねて来たのは…
シリーズ11作目『寅次郎忘れな草』以来の登場となるリリー!
何と言っても今回の見所は、この名マドンナ…いや、寅さんの運命のマドンナの再登場!
前回のラストで寿司屋の女将になった筈が、結局別れ、また各地のキャバレーを歌って回っている。
積もる話もあったのか、寅さんに会えなかった事を残念がり、リリーも旅に出る。
その頃寅さんは、青森に居た。ヘンな連れと一緒に。
聞けば、一流会社に勤め、裕福な家庭で暮らしている中年サラリーマン・兵頭。
突然蒸発したくなり、当てもなく旅してた所を寅さんに声を掛けられ、以来くっついて来ている。
うんざりしている寅さんだが、放っておけない。
珍妙な男二人旅は北海道へ。
函館の屋台ラーメン。そこでばったりとリリーと再会する!
寅さんとリリーの最初の出会いも北海道だった。
「何してたのさ?」と聞くリリーに、「恋をしていたのよ」と返す寅さん。
懐かしさと思い出話と積もる話に花が咲く。
男二人に女一人が加わり、一気に華やかで楽しい旅に。
渡世人の男女と競争社会に疲れたサラリーマンへ向ける山田洋次監督の眼差しが優しい。
旅は小樽へ。
兵頭の初恋の相手が居る。
再会し、相手も何か言いたげだったが、結局何も出来ないまま、挨拶だけして去る。
その事を悔やむ兵頭。自分はたった一人の女性もろくに幸せにしてやる事も出来ないのか。
慰める寅さん。
それに対し、リリーが異論を唱える。
バカ言うんじゃないよ、女は男の助けが無きゃ幸せになれないってのかい?
気の強いリリーらしい言い分。
これがきっかけで寅さんとリリーは口論。寅さんはつい、酷い事を言ってしまう。
喧嘩別れ。楽しかった旅も終わり…。
柴又に帰ってきた寅さん。ずっとリリーの事が気になっている。
そこへ、リリーが訪ねて来る。
北海道での喧嘩は何処へやら、すっかり仲直り。
昼間から腕を組んで歩く寅さんとリリーは、柴又中の話題。
あらぬ噂も。二人は出来ている、寅さんはリリーのヒモ…。
いつもなら寅さんの恋路にやれやれのとらや一同だが、今回は違う。
相手がよく知っている人だからもあるし、それ以前に、寅さんとリリーが仲良くして何が悪い?
また、寅さんのリリーに対する優しさは本物だ。
リリーを仕事場の店(キャバレー)へ送って行った寅さん。あまりにも狭く、お粗末な店にショックを受ける。
リリーはこんな所で歌っているのか…。
もし俺に金がたらふくあったら、大劇場を貸し切って、思う存分リリーに歌わせてやりたい。
そんな寅さんのリリーへの優しさに感動するさくらたち。
かと思えば…。
さて、皆様、お待ちかね! シリーズ屈指の爆笑エピソード“メロン騒動”である。
兵頭から頂いたメロンを食べようとするとらや一同。
うっかり、寅さんの分を切り忘れた!
そういう時に帰って来るのが、寅さん。
「訳を聞こうじゃねぇか、訳を」
「俺のはどうしたの、俺の~!」
メロン一つで不機嫌になる寅さん。
見かねて口を挟むリリー。
再び、寅さんvsリリーの言い合いバトル。
が、今回はリリーの圧勝。ぐうの音も出ないくらい寅さんを言い負かす。
やっと出た寅さんの一言が、「これでも女でしょうか!?」(笑)
ぷいととらやを飛び出すが、さくらたちは、「スカッとした~!」「いっぺん、あんな風に言ってやりたかった」。
勇ましいリリー。
このすぐ後が秀逸。
突然、強い雨が降ってきた。
傘を持たないまま仕事に行ったリリー。
喧嘩した後、遠回しにリリーを心配する寅さん。
ブツブツ文句を言いながらも、リリーを迎えに行く。
寅さんが迎えに来てくれた事が、メチャクチャ嬉しいリリー。
「迎えに来てくれたの?」
「バカ言え、散歩だよ」
「雨の日に散歩なんかするの?」
「しちゃ悪りぃのかよ」
今回のタイトル通り、相合い傘して帰る寅さんとリリー。
喧嘩して仲直りして、またすぐ喧嘩してまたすぐ仲直りして。
お互いにとって、これ以上の相手はいないだろう。
さくらは思いきって、リリーに話す。リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたら…。
それを聞いて、リリーは…。
船越英二の惚けた演技、
本作で多くの映画賞を受賞した浅丘ルリ子の好演、
相性ばっちりの寅さんとリリーの掛け合い。そして…
どうしても素直になれない二人。
リリーはおそらく本心だったろう。
寅さんもそれが分かっていながら…。
リリーみたいないい女は、俺と一緒になっちゃあ幸せになれない。
傷を癒し、美しく逞しい渡り鳥は再び自由へ飛び立つ。
前14作目はちと平凡な出来だったが、本作は、渡世人男女の切なさと情感の恋路がたっぷり描かれ、出色の出来に。
二人の恋路はまだ終わらない。
次二人が再び巡り合うのは、シリーズ25作目、屈指の名篇『寅次郎ハイビスカスの花』となる。
冒頭、居眠りして見てないくせに、ちゃんと映画館のおばちゃんに礼を言う寅「面白かったよ、どうもありがとう」
おなじみのオープニングテーマ曲、自転車を止めふと兄を想うさくら
パパとリリーとの旅、ここだけで一編のロードムービー。船越英二が嫌味のないいい脇を演じる。
リリーを心配する寅の名演説。
そして超有名、メロン騒動。浅丘ルリ子はシリーズになくてはならぬ存在感あるマドンナですね。
ラスト、哀愁漂う兄妹の渡り鳥のやり取り。
名シーンの数々。こうあるべき、こうなりたいと思う日本、日本人がここに。中でもやっぱりさくらが最高峰!皆絶頂期の第15作、奇跡の一本です。
「男はつらいよ」シリーズ第15作。
HuluでHDリマスター版を鑑賞。
夢のシーンがかなり凝ってました(笑)
海賊船のセットやちょっとした特撮シーンなど、結構お金が掛かっていそうでした(笑)
しかも、米倉斉加年と上條恒彦が海賊の手下役でまさかのノンクレジット出演とは…(笑)
それはさておき、リリーが早くも再登場!
北海道を寅さん、寅さんと知り合いになったパパ、リリーとで旅行することに…。ロードムービーの趣がありましたが、いろいろあって喧嘩して、その場は解散となりました。
女を幸せにしてやる、という男の思い上がりをバッサリ斬って、男が女に対して抱く幻想や夢を冷めた目線で見つめる…。リリーの言葉にハッとさせられることしきりでした(笑)
リリーに酷いことを言ってしまったと反省する寅さん。「悪いこと言っちゃったな」と気にしていて、もしや彼女が居やしないかと、とらやに帰って来ました。そこへ偶然リリーがやって来たことで、またまた気持ちが燃え上がり…。
――
名シーンの宝庫でした。
“メロン騒動”や“寅のアリア”も良かったですが、個人的にはやっぱり相合い傘の場面が好きになりました。
ふたりの会話もいいし、何より寅さんが持つ傘の柄を、そっとリリーが一緒に握るというそのさりげなさよ…。
寅さんの優しさとそれを微笑ましく思うリリー。喧嘩をしてもすぐに仲直りしてしまう…。“喧嘩するほど仲が良い”と言うけれど、それを地で行くようなふたりの関係性…。大人の恋愛の機微が集約されているように感じました。
※鑑賞記録
2020/04/05:4Kデジタル修復版Blu-ray(2回目)
2020/07/11:BSテレ東「土曜は寅さん!4Kでらっくす」
いつもの年ならばGWの幕開けです
しかし今年は新型コロナウイルス禍によって、旅行どころか自粛ばかりでどこにも行けやしない
テレビもネットもコロナ禍の暗い話ばかり
気が滅入ってしまいます
寅さんならこんな時、何しけた顔してやがるんでえ、パーッとどこっかみんなで遊びに出掛けようじゃないか!とか言い出して、またとらやの茶の間でみんなにボロクソに諌められて凹んでいるかも知れません
正月やお盆に寅さんを観たくなります
そして、こんな陰々滅々なときにも観たくなるんです
寅さんの映画はそんな映画です
今こんな気のふさぐような今年のGWにこそ寅さんの映画を観たくなりませんか?
なら、その中でどれを観るのか?
本作しかないでしょう!
初夏から夏にかけての物語
シリーズ屈指の名シーンの数々
そしてリリーさんの承諾
今年のGWの幕開けの空のように、心が快晴になります
早くコロナウイルス禍も終息して、寅さんのようにさあてどこにいこうか、気の向くまま北へ南へ旅に出たいものです
改めて観て脚本の出来がもの凄いレベルです
冒頭の海賊船の夢は青函連絡船にリンクしています
青函連絡船はリリーさんと再開する函館に寅さんとパパを連れて行ってくれる船なのです
パパと小樽の喫茶店の女性との一瞥だけの別れのエピソードは、寅さんとリリーさんのわかれとリンクされているのです
見事でただただ感嘆するのみです