バクラウ　地図から消された村

正直なところ、途中で止めようと思った。監督が何をいいたいのか全くわからないし、ただ、ホーラ映画や、スリラー映画を作ったのではないのはわかる。ブラジルの現状、政治混乱の中、このような作品を作るんだから。このつまらない映画の中に、なにか見出せないのかと考えて見ていたら、この映画が二千十九年のカンヌ映画祭で賞を取ったと知った。ええ？ほんとう？　カンヌはちょっと風変わりな映画が賞を取るので、まあ理解できとるして、そ
のあと、監督（クレベール・メンドンサ・フィリオ）と医者役を演じた女優（ソニアブラガ）のあるインタビューを聞いたが、全く、何が目的でこの映画ができたのかも何も話していないし、ソニアがこの映画で子供の死が、強烈であって、こんなことがあってはならないような話をしていて、観客に喝采をされた。それに、この監督はブラジルのレシフィーにある大学をジャーナリズムを専攻して卒業し、ジャーナリストで映画評論家でもあると。リオやサンパウロの新聞に投稿したり、雑誌にも記事を載せていたらしい。そうなると、ブラジルの将来を予測しているのかな。地図にない場所をジャイール・ボルソナーロ が作っているのかもしてないと勝手に考えたりした。ブラジルの私の友達はジャイール・ボルソナーロ の息子は問題が多く、整形手術をして逃げていると言った。息子が安心して住める場所が地図にないところかもしれないとも思った。なんだか時間を無駄にしたような作品だった。これはあくまでも私感である。

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Bacurau: If you go, go in peace.　なんとアレゴリーな標識！！
オープニング．．． 　ガル・コスタの美しい歌声が響くなか、その場所が宇宙空間って、あまりにもミスマッチなシチュエーションなのに何故か悪い気はしない。　映画の第一印象もつかの間、カメラは地上に降りて行き、いきなりデコボコな道路ではトラックが横転していているところに出くわす。そのトラックの荷台から棺桶が道端に放り出され、しかも事故で投げ出された血だらけの人は身動きもしない。　そんなことをしり目にテレサの乗っている給水車は、冷めたように棺桶なんて完無視で跳ね飛ばし、村へ唸り声をあげて向かう。なんかすごく粗削りなシーンに続き、村に着いたテレサは、出迎えのナラワシとして、得体のしれない向精神薬を彼女は意に介さず進んで舌にのせ、村の長老である彼女の祖母の葬儀に参列する。　この祖母の遺体がいかにも本物を思わせる異常さがこのキッカイな映画を象徴する前触れのようにその後に起こるUFOが村人の後ろから追いまわし、村の存在自体がネットから消され、近くの住人が皆殺しになる凄惨な場面も否応なしに出てくる... 前半の異様なギャップ感の凄さ。　映画のオープニングから50分ごろまでは、テンポのあるプロット展開になっているのに何故そんなことが目の前で現実に起こるのかは見ている側としたら全然参加できず、理解もできず、部外者そのものとなっていることでシナリオには乗り切れないのに、変な話し、映画には見入ってしまうなんて？　奇妙な事が映画の画面だけでなく、こちら側にも奇天烈な事として感情に起こってしまう... なんて奇々怪々なんだ⁉

How did I come to love this gun? I was a babysitter in New York,
and the grandfather, must have four Thompson . And he had
them in this thick glass cabinet, I mean, super hi-tech stuff. And
one day I asked him about that machine gun and he took it out
of the cabinet, and placed it in my hand... And that was that.
UFOが村人を追いかけまわすところや映画の冒頭のテロップから近未来の Sci-Fi映画と思わせておいて、そんな事には関係がなく、言葉にはできない凄惨なグロス・アウトを代表するニュー・ウエスタン映画になっている。その証拠に牧場から逃げ出してきた突然画面に現れる馬の大群や見知らぬ男女のバイカーが村人と対峙して、あたかもガンマンらしく処刑スタイルで彼らを撃ち殺し、殺戮集団は理由も明かさず、ハイテクな武器を使うのを禁じている。　まさに西部劇。　そのゆえんとして、この映画「バクラウ　地図から消された村」は、映画ではめったに見られない小道具の棺桶がセルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」のようにオブジェ以上の映画の雰囲気のアイテムとして使われ、水が枯渇してしまっている村人が自分たちの力では解決できない為に仕方なく最終手段として逃亡犯でならず者のルンガ一味に助けを借りる代償として食事を提供するあたりは、黒澤明監督の映画「七人の侍」の助っ人を見つける命を受けた百姓がデカ盛りの炊き立ての飯を浪人に差し出す名シーンに繋がっている... また黒澤監督の定番中の定番、彼の映画によく使われているワイプと呼ばれる画面が幕を引くような場面展開の古臭い？エフェクトなんて黒澤明の妄信者？の作った映画「スターウォーズ」ぐらいしか昨今の映画では、お目にかかれないのに、そういうところもフィリオ監督は取り入れている。

Don't use your arms for protection. Away from your body. You
know? Terry, you know? Next time, you want to piss somebody
off, don't use those stupid cliches.
現ボルソナーロ大統領... 公に同性愛を非難し、ドラッグの合法化反対主義者。アフロ・ブラジル人への積極的な承認姿勢にも同意しない理由を表すように「黒人は繁殖する役割ではない」と公言している極右的思想の持主の差別主義者。
かつての奴隷制度の下、遠くアフリカから連れてこられてきた黒人を先祖に持つアフロ・ブラジル人が多く住みカポエラの発祥の地ともされているブラジルの北東部にあるペルナンブーコ州... その西側にある架空の田舎町バクラウがこの映画「バクラウ　・・・」の舞台となっている。　その事で本作品が大統領に対して、反旗をひるがえしているようにも映る。

嫌らしさの象徴... ブラジルの社会現象の暗部であり恥部のメタファーとして、一方では水をせき止めることに加担し、もう一方では水や食料を希求しているバクラウの村人に賄賂として提供し、媚を売りまくる二枚舌の市長再選を狙うトニー・ジュニア。今まさにブラジルでは目を疑うような事が同じように行われている。それは、COVID-19が直撃をしているブラジルが生んだ貧民街、通称：ファベーラ... 現政権は援助をせずに見殺しにし、政府の対応をめぐって世論の分断は広がり、コロナ禍の収束は先が見えていない。ただし、The Asahi Shimbun Globe＋より、近況では感染被害を抑えていると注目されているファベーラがある。その名は、サンパウロのパライゾポリス。652人の通称：「路地の大統領」が先頭に立ち、感染防止の対策にあたっている様子から、パライゾポリスが本作品のバクラウの再来かと..

"Rebellion quashed in Bacurau"
50分を過ぎて、元傭兵のマイケル率いる差別主義的お金持ちの白人による快楽殺人グループが登場してからは、この映画が空想の世界観からあたかも地上に湧き出てきたような絶対悪アリーマンが起こす殺戮の現実味が帯びてくる。それと同時に、今までの映画のテイストが一変する。
現在ブラジルが抱える南北の経済格差をブラジルの北に多く住むアフリカ移民の貧民の "colored" と南のヨーロッパ移民の富裕層の"Cracker(よくない言葉、失礼)" との二分した構図を凝縮し、ブラジルの負の社会構造の縮図のコンテとして... この映画の存在そのものがシンボライズされている。
ここで登場する元傭兵マイケルを演じていたのが、知っている人は知っている眼ぢからで演技をするウド・キアがお出ましなので、一長一短なところもあり、一朝一夕では終わらない映画とも言える。

－ 標準的な復讐ファンタジーフリック ー
ハワード・フォークス監督の映画「リオ・ブラボー」、ジョン・カーペンター監督「Assault on Precinct 13」、最近では、映画「ザ・ハント」を踏まえて、同じような流れの映画の中でもフィリオ監督が傾倒しているジョン・カーペンターの存在。　その事は、二人の住民の死を称えるための儀式的死者を祀る為にカポエラを供物として捧げるダンスシーン... それには、ジョン・カーペンター監督が、2015年に公開したミュージック・ビデオ映画「John Carpenter: Night」に使われた曲と街を空から撮影する映像スタイルと構図から、このミュージック・ビデオをオマージュしているのは見た一瞬で直ぐに分かってしまう。
冗談かと思える？　．．．作中出てくる学校の名前が "João Carpinteiro(John Carpenter)" ってどれほどジョン・カーペンター愛が大きいのか？

All right, let's get this over with. He's leaving now. The mayor of Serra
Verde municipality, Tony junior！On his way to the Bacurau caatinga.
May he find there the inner peace he sorely needs, among the
cactuses, thornbushes, Mandacaru, favela and Xique Xique. All those
bushes waiting to give him a spiky hug. Spinner of lies, natural-born
asshole. He brought pain and suffering to our community. Today, we
in Bacurau say goodbye to this demon. Hopefully, it's the last we'll
see of him. That donkey better come back unharmed from its
miserable mission.
Filthy son of bi*ch. Good riddance.
村の広報的役割のサングラスの男のアジテーション... 片田舎なのに住民はみなスマホを持ち、荒れ果てた何も育たないような町なのにハイテク機器とのコントラストの悪さ。その最たるものは、町にはふさわしくない立派な白塗りの博物館... この博物館がこの映画の最後の暴力シーンに繋がるキーになっている。

We killed more people than you know. This is only the
beginning！Yeah！
古くは、イーストウッドやレッドホードとも浮名を流したソニア・ブラガ女史... 以前の作品「アクエリアス」のような弱い立場と思っていた死期が近い女性の底知れないたくましい姿を熱演し、今回は、スッピンであの輝くほどの黒髪は影を潜め、狂気に近いアルコール依存症の女医に扮し、これまた熱演をし、また彼女を違ったキャラとして二つの作品で描いているフィリオ監督... 今まさにブラジルには必要な旬でホットな話題性があり、悪を完全に消し去るような勧善懲悪主義を貫くバイオレンスに特化した映画を製作。　ポピュリズムと揶揄されても、そんなくだらないことは、はね除け、そしてチンケな事なんて目に入らないし構わない．．．　それだけ意味ある映画として、正論の枠組みを超えた代物になっている。　　そんな映画です。