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TITANE チタン評論(14)
「クラッシュ」と同じ金属やメタルの冷たい感覚。再生と生誕のプロセスは炎のイメージで熱くて痛い。怖いのに何度も涙が流れたのは「ザ・フライ」以来。
見てよかった。
カンヌでは途中退室者続出と耳にしましたが、実際キツかった〜。
痛いの苦手なんで。薄目で鑑賞。
でも、実際には映っていなくても痛さを感じるって凄いですよね。映像力!
痛いのが苦手な方は注意した方が良いですが、それを乗り越えてでも見る価値はあると思います。
『オールドボーイ』『嘆きのピエタ』『オンリーゴッド』あたりが大丈夫なら問題ないレベルかと。
しかし、これをパルムドールに選ぶとは、さすがはカンヌ。
ぶっ飛んだ映画ですが、ラストは今まで感じたことの無い、ものすごい愛情に包まれます。
あらすじでは「アレクシアの体には重大な秘密があった」までしか書かれていないので、この先はネタバレか。
要点をぼかして書きますが、気になる方は読み飛ばしてください。
ツッコミどころ満載のぶっ飛んだ展開についていけるかどうかで賛否が分かれるかと思いますが、私はメタファーとして受け止められました。
「車」はどう考えても女性ではなく男性の象徴でしょうが、この映画では父親として描かれていたと思います。
父親との確執に始まり、父親を求め、父親の愛で終わる。
それに、これまで女性が母性と言う名の幻に言いくるめられてきた感覚には、ものすごく共感できます。
一応、経験者なので。自分の体への違和感や自分でハンドリングできない恐怖に気づかないように麻痺させて、やり過ごすしかない。
グロテスクな肢体から目を逸らすのに重宝するのが“母性愛”
“チタン”は私たちに後から埋め込まれた“固定概念”そのもので、逆説的に説いていると感じました。
女性が乗り越える過酷な変化に対して綺麗事で蓋をせず、「気持ち悪い」や「怖い」と感じてしまう事を責めないで欲しい。
それに母性を賛美しておきながら、そのくせ職場(社会)では身体に異変が無いフリを暗黙のうちに強要される。体調が悪くなろうものならポジションから外されかねない。(と本人がプレッシャーを感じることも)
その辺の現代女性が抱える問題にも切り込んでいると感じました。
そして、それと同時に、滑稽に感じていたフォルムが美しく愛おしく見える瞬間があることも描かれています。自分の体を受け入れる瞬間が見事です。
じゃあ、男に父性は無いのか??
もちろんその問題にも言及しています。
時として他者を排除してでも失いたくない存在がある。
私たちは、良くも悪くも愛に依存出来る。
そして私たちは、男であっても女であっても、
この未知なる得体の知れないものを無条件に愛で包み込むことが出来る。
そんな力強いラストに震えました。
自分はどちらかというと、リアル9:フィクション1で、リアルがフィクションを超えていく瞬間に映画的快楽を覚えるタイプ(桐島、部活やめるってよ、愛がなんだ、ファントム・スレッド、Swallowなど)。これは言うなら真逆といえば真逆で、フィクション味が強い、どこかSFのようなスリラーなので本来なら好まない。評価も難しいタイプの映画である。主人公に感情移入しにくい設定であり、思い切って説明セリフを排しているから。
じゃあこの映画がつまらなかったかと言えば、これもその真逆で、とてつもない映画体験をさせてもらったし、映画館で見ると震え上がるようなグロシーンもあるので、オンライン試写で見させてもらって本当に良かったと思ってる。
タイトルの作り方だよね。TITANEの文字の中に何があるか。この時点で作り手の確かな技術が伺える。
オープニングの交通事故までのシーンからのダンスシーンの毛色の美しさ。証明やカメラの撮り方まで本当に素晴らしい。
類似作としては、遊園地の遊具に本気で恋をする「恋する遊園地」に近いだろうか。これもフランス映画。でももっと容赦ない。車との性描写はもはや暴力と言ってもいい快楽の求め方だったし、己の幸せしか見えてないような作り。愛されて育ってこなかったことへのメタファーなのか?
エンディングにかけて疾走感を失わないのは、主人公と息子を探す父親の確かな演技力。先程も書いたように説明セリフを排しているからこそ、演者の目線一つ、唸り声一つ、ため息一つでわからせてくれる。
これがパルムドールですか…攻めてますね…とも思ったけど、どこか万引き家族やパラサイトにも通底してるものも感じた。愛とは、家族とは、成長とは何か、狂気も感じつつ確かな技術によって作られた傑作です。
あまりにも痛々しい描写が多くあり、思わず声を上げてしまう場面も…
それだけ女性が抱える果てしない痛みを、倫理から外れ、雑然としながらも、説得力のある描き方で視覚的かつ潜在的に響くように表現する。控えめにいっても奇天烈で、時に痛々しさ故に不快で、それでいてディープな魅力に溢れる良作だった。