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エグザイル 絆評論(8)
冒頭、石畳の路地に佇むいわくありげな男たちを、スローモーションでゆるやかに捉える移動ショットだけで活劇の血がざわざわ騒ぐ。
続いてアパート内で始まる銃撃戦の演出も絶好調。戸板を遮蔽物に撃ち合う男たちの銃弾によって、蜂の巣になった戸板が蝶番から外れ宙を舞う。スローモーションでくるくると回転し続ける戸板を挟んでなおも撃ち合う男たち。かっちょえー!とかシビれてるとやにわに休戦。さっきまで撃ち合ってた男たちが協力して炊事、配膳、あまつさえ破壊された家具の修繕までして食卓を囲む可笑しさ。
敵味方が食事を共にする様子をコミカルに描いた場面は「ブレイキング・ニュース」にもあったが、和解や平安の描写として実に簡潔だ。「これ以上の切った張ったはお互い無用の血が流れるばかりだしここらで手打ちといこうや(みたいな広東語)」とか台詞を並べずとも、無言で箸を交わさせれば済むのだ。コーヒーカップに沈んでいた空薬莢をぷっと吐き出し一同が笑う場面など、映画史に残る名シーンではないのか。
ざっとこれが導入部。以降はストレート・トゥ・ヘルな破滅と銃弾のオペラへと突き進む。ある時は犯罪映画のクリシェを熱く語り、かと思えば飄々とトンデモ方向へひっくり返すトーさん映画の真骨頂。全てのアクション映画好き必見の傑作。
かなり、この映画に対して「ジョニー・トーの最高傑作!」という感想を見かけますが、個人的には、「ザ・ミッション/非情の掟」を超えた様には思えません。
確かに、各シーンの撮り方やディテール、BGM等、「ザ・ミッション」を超えるクオリティを「エグザイル」からは感じます。
しかし、全編を見終わった後の、興奮度の持続性に関しては、「ザ・ミッション」の方が数段上でしたね。
実際、「ザ・ミッション」は、上映時間は90分を切る短さでしたが、そこに描かれる“男たちのカッコよさ”に痺れてしまい、見終わった後は、2時間以上の映画を見た満足感に満ちていました。
「エグザイル」では、同じようにカッコイイ事はカッコイイんだけど、そこまでの満足感は得られなかった気がします。
思うにこれは、ラスト・シーンの内容の違いに拠るものかと。
「ザ・ミッション」のラストは、その先には悲劇が待ち受けているのかもしれないながら、これからも話が“続く”のに対し、「エグザイル」は、ラストで完全に“終わって”しまいます。
この違いが、見終わった後に余韻を残すか否かであり、感動の度合いの違いを生んだのではないかと。
…まぁ、ここまで言っておきながら、これはかなり、贅沢な意見だとの思いもあります(苦笑)。
とにかく、「エグザイル」は、そんじょそこらのアクション映画を凌駕する、見る価値大!の作品である事は確かなので、出来るだけ沢山の人に見てもらいたいですね。
最初から最後まで、実に気持ちの良いガンアクションでした。
アンソニー・ウォンが好きだから、というのもあるでしょうが、ド真ん中ストライクな映画。
アクション映画はやっぱりこうでなくちゃ! と感じさせてくれる躍動感。日本人はどうにもアクションものは作るのが苦手なのか、和製アクションエンタメはほとんどお目にかかれません。
なのでその辺は、香港、アメリカ、フランス(ほとんどリュック・ベッソンだが)、タイなどの映画で補充します。
この作品は本当にいい。
そんなに深みのあるストーリーでもなければ、ハッピーエンドでもないけれど。
人物の立ち振る舞いに魅了されてしまう。
若くないから、そんなに走ったり跳んだりはできないけど、大胆かつ確実。ここぞというときの瞬発力。さすがです。
ミニシアター系なのが惜しい一作。
鑑賞劇場:シネマート心斎橋