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トリコロール 青の愛評論(6)
そして、主人公が家族を失った悲しみを思い出すときに、タイトル通りブルーに支配される画面も深い色合いだ。カラーフィルムによる映画の到達点だと思いたい。
「青」という色はフランスの3色旗の中の「自由」を象徴する。主人公の女性ジュリーにとって何が自由なのか?裏を返せば、彼女の不自由さとは何か?これがこの映画のテーマとなる。
キェシロフスキは、娘を亡くした悲しみから立ち直れない主人公の姿を、その感情から自由になれないという視点で物語る。
映画は観客にこのジュリーという女性への同情を求めない。むしろ感情移入しやすいのは彼女を取り巻く人々のほうであろう。例えば、アパートの階下に住むストリッパーの女性、事故が起きたときにけん玉をしていた少年、そして彼女に以前から恋をしていたオリヴィエという夫の同僚。
そして、これらの人々は皆、ジュリーの深い悲しみを知ってか知らずか、そんなことはお構いなしに自分の心情を彼女に吐露するのだ。元来、懐の深い思いやりに満ちた女性であるジュリーは、こうした周囲の者に対しても思いやりを持って接する。
周りの人々と共に悩み、考え、心を動かしているうちに、彼女を支配していた悲しみは背景へと遠のく。最愛の家族を失った後の世界にも、彼女を求め、彼女に救われる者が何人もいる。
彼女は新たな厄介事を背負い込んだだけなのかも知れない。しかし、今までの自分を縛り付けていたことからの自由は、他のことに関わる面倒に他ならない。
新たな恋人オリビエや夫の子を宿した愛人との関わりを選んだジュリーは、娘を失った悲しみからの自由を得る。人生は何から自由になり、何に対して不自由になるのかを選択することなのかも知れない。