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グレース・オブ・ゴッド 告発の時評論(20)
幼い頃の性的虐待によって、長年、深いトラウマを抱えて生きてきた男たちが、「過去の出来事の告発」に挑み、様々な試練に立ち向かう衝撃の実話をフランソワ・オゾン監督がフィクション化。
ドキュメンタリーにすると、彼らの苦悩を何度も引き出す形になってしまうため、役者が演じるフィクションにした点は成功している。さらに、ドキュメンタリーよりもストーリー性が出てくる分、主な登場人物の人間ドラマが伝わり、「告発」の大きな壁に立ち向かう各々の心理状況がより共感できた。
仕事や家族を持ちながら、体裁や時間とも戦わなければならない現実を乗り越えていく彼らの姿は、見る者に勇気を与える。
同時に、告発する側もそれぞれの環境や価値観で意見が合わなかったり、一般的な信仰心と対立することとなってしまう場合があり、本件が「終わりが見えない深いテーマ」であることも本作は訴えている。
重たい内容ではあるが、ファッションはそれぞれ個性的で清潔感があり、1個人を尊重するフランスらしく人間関係においては、程よい距離感が保たれている部分も参考になった。
なお余談だが実在の神父は今年3月に禁錮5年の有罪判決をうけたが、その公判中に「自分も少年時代に聖職者から性的虐待を受けた」と告白して法廷を騒然とさせたそうな。
作品としては凡庸。告発者ごとにエピソードは分断されるし、映画の醍醐味は少なくとも私には感じられなかった!
オゾン作品の中でも、最もつまらなかった。
被害者は数百人いるんじゃないかとも思われたプレナ神父の性的児童虐待。彼の被害にあった男子は何年もの間、被害を口にすることも出来ず、また親に伝えたものの軽くあしらわれたりして事件は表ざたにならなかった。そもそも親からすれば、敬虔な神父様がそんなことをするはずがないという固定観念によって、虐待の事実は闇に葬り去られていたのだ。
幸せな家庭を築いていたアレクサンドルが発端だった。未だに子供たちを教えている司祭となったプレナ神父に憤りを感じて、謝罪をしてもらうつもりで面会に応じるのだが、事実は認めるものの謝罪の言葉がなかった。バルバラン枢機卿にしても、教会としての罪を巧みにかわそうとするだけだったので、刑事告発するに至る。
一方で、時効が成立している匿名の被害者が告訴したことを受け、被害者の会を立ち上げたフランソワ。カブスカウトの名簿から同じように被害者を探し出して、皆で告発しようという目的だ。外科医の仲間や多数の被害者を見つけ、定期的に会合を開くようになる。
スカウトの子たちはほとんど裕福な家庭の子だったが、エマニュエルはそんな中でも両親の離婚により苦難の道を歩む。IQ140という頭の良さ(ゼブラと言ってた)が逆にあだとなり、友達もできない、仕事も恋愛もうまくいかなくなるという運のない人生を強いられてきた。プレナの名前を見るだけで痙攣発作を起こすという症状も痛々しい。
神父の贖罪、対する“赦し”を問う内容かと思ってたのに、全く違っていた。被害に遭った男子たちがカトリックの権威ともいうべき神父について沈黙を守らざるをえない状況。それを打ち破るための結束の物語。一人の神父とそれを擁護しようとする教会側との戦いでもあり、彼らのトラウマや人生の大半を台無しにされたことを世間に知らしめるものだった。
教会内の荘厳さを映し出していたりしているし、カトリック教会を非難したり糾弾するノンフィクションでもあるけど、宗教そのものを否定する作品でもない。教会の自浄作用、組織を正しく導くための訴えだと思う。中には信仰を止めるという者もいたけど、その時のアレクサンドルは結婚指輪を外そうか外すまいかと悩む姿を映し出していたし、キリストの教えは尊重しているのです。逆に会見でバルバラン枢機卿が不謹慎な発言をしたり、記者の痛烈な質問の方が的を射たりしていたのも面白いところ。
日本人にとっては馴染みの薄いところではあるけど、権威・権力によって性的虐待を受けることは親からの虐待事件と何ら変わりがない。親だから逆らえない。上司だから逆らえない。世間体、友人からは白い目、訴えれば逆にハニートラップだとして非難する輩もいる。有無を言わせぬ権力によって隠蔽工作する奴もいる。そんな世の中の暗部を真摯に描いたフランソワ・オゾンを称えたい。